撹拌
撹拌は化学工業において基本的な操作ですが、感覚的な判断や経験的な判断に頼ることが多くなりがちです。科学的な知識を理解しておくことで、スケールアップや新規設備導入などで役立ちますので、ここでまとめておきます。
撹拌層内の流動
- 旋回流:撹拌機に対して円周方向の流れ。通常意識している流れだと思います。撹拌翼の先端部付近が旋回流の速度が最も早くなります。邪魔板をつけることで全体的な旋回流は減少し上下循環流、放射流が強くなります。
- 上下循環流:撹拌機の回転方向に対して垂直方向の流れです。撹拌層壁がもっとも流れが速くなります。邪魔板をつけることでより上下循環流が大きくなります。
- 放射流:撹拌機の軸から撹拌層壁への流れ。撹拌翼付近が最も速度が速く、撹拌翼から上下方向に離れていくにしたがい速度は減少します。邪魔板をつけることで流れが強くなります。
撹拌の作用
撹拌のエネルギーは主にせん断作用と吐出作用に変換されます。せん断作用が強い撹拌翼は吐出作用に劣り、せん断作用が劣る場合は吐出作用が強くなることが多いです。
せん断作用は分散能力に影響し、エマルジョンの乳化、ポリマー成分を溶剤に希釈するようなディスパージョンなど液滴や気泡の微細化などに効いてきます。
吐出作用は循環能力です。混合時間、伝熱など反応速度に特に効いてきます。
撹拌翼の種類
タービン翼:吐出能力よりせん断能力に優れる撹拌翼。固体粉砕や分散に適している。中程度の粘度まで使用され、応用範囲は広い。乳化や乳化/懸濁重合、抽出、ディスパージョン、気液反応等に用いられる。
プロペラ翼:中粘度(3000mPas程度)までの液体に使用される。タービン翼に比べると吐出能力が高い。液液系の混合、温度均一、液固径のスラリー沈殿防止に使用される。分散等には不向き。
パドル翼:プロペラ翼よりも吐出に優れ、せん断に劣るタイプの翼。構造がシンプルなため安価。用途としてはプロペラに似て、液液系の混合、温度均一、液固径のスラリー沈殿防止に使用される。50000mPas程度の高粘度液体にも対応できる。
アンカー翼:ほぼせん断はなく、吐出能力のみの撹拌翼。高粘度まで使用可能。軸付近の流れがほとんどないため混合には不適だが、壁面の流れはだすことができるため、ジャケット伝熱や晶析によく使われる。アンカー翼の課題を解決したものがリボン翼だが、アンカー翼は安価で、特別な製造の要件がなければ採用されることも多い。30万mPas程度まで使用可能。
リボン翼:アンカー翼同様せん断はなく吐出がメインの撹拌翼。アンカー翼の課題である軸方向の流れを作り出せるように斜めの羽がついている。こちらも高粘度まで対応。
参考
圧力容器
化学工場では様々な圧力容器が使われています。圧力容器は扱い方を間違えるととても危険であるため、ルールが定められており、遵守しなければ操業できなくなってしまいます。ここでは大まかな決まりについてまとめています。
圧力容器とは?
圧力容器は「大気圧と異なる一定の圧力で気体や液体を貯留するように設計された容器」のことです。ガスボンベや蒸気ボイラー、コンプレッサーの出口に設置される圧縮空気タンクなどもこれに当てはまります。内圧が大気圧より高い機器が、万一破裂すると甚大な被害が発生します。なので設計基準がJIS規格で決められている、設置や製造の際に都道府県労働局の検査が必要、定期点検を実施が必要といった規制があります。
高圧ガス保安法と労働安全衛生法
1MPa以上の気体、0.2MPa以上の大気圧の沸点を超える温度の液体(飽和液)は高圧ガス保安法、それ以下は労働安全衛生法で管理となる。労働安全衛生法の対象となる圧力容器のうち、
第一種圧力容器・・・大気圧の沸点を超える温度の液体(飽和液)
第二種圧力容器・・・気体(ガス)
第1種圧力容器のうち、
最高使用圧力をP(MPa)内容積をV(m3)とすると両方の積によって次のように分けられています。
•PV > 0.02 ⇒ 第一種圧力容器
•0.004 < PV ≦ 0.02 ⇒ 小型圧力容器
•0.001 < PV ≦ 0.004 ⇒ 簡易容器
•PV ≦ 0.001 ⇒ 適用外
最高使用圧力というのは、通常で使用する圧力ではなく、構造上それ以上にならないという圧力です。安全弁が設置されている場合は、安全弁の設定圧力が最高使用圧力になります。
第2種圧力容器のうち
設計圧力が0.2Mpa以下は簡易容器に該当します。
点検頻度
高圧ガス保安法・・・年に1回
第一種圧力容器・・・年に一回、都道府県労働局などによる検査が必要
小型圧力容器・・・年に一回、自主点検の義務がある
第二種圧力容器・・・年に一回の自主点検の義務がある
簡易容器・・・特になし
配管の基礎
配管の基礎についてまとめています。工場で働くとたくさんの配管を見ることになります。様々なサイズや形の配管があり、その呼び方は独特なもので、初めて工場で働く方にはとても分かり辛いです。工場で働くものとして最低限知っておくべき配管の基礎についてまとめていますので、参考にしてみてください。
配管サイズの呼称
- mmで呼ぶときA系という
- インチで呼ぶときはB系という
- 300Aまでは内径の値、350A以上は外径のサイズを言っている
スケジュール
- 耐圧はスケジュール(Sch.)で分類される
- Sch.40は4MPa Sch.80は8MPa
- 内圧による亀裂、破損は円周方向に広がる。なぜなら軸方向の応力は周方向の半分しかないため。
- 軸方向への亀裂があった場合は集中荷重などの影響が考えられる
伸縮管継手(しんしゅくくだつぎて)/エクスパンジョンジョイント
- 伸縮性を持った配管で熱膨張などによる配管の伸び縮みを吸収する(100度上昇で230MPaの応力が発生)
- メカニカル形、スライド、ハウジング、フレキシブルチューブ、ベローズ、ユニバーサルなどと呼ばれるタイプがある
- 下記サイトに詳細があり、分かりやすく説明されています。
https://www.tlv.com/ja/steam-info/steam-theory/steam-trouble/0902water-hammer1/
フレキシビリティ
- 配管のたわみのことをフレキシビリティと呼ぶ。エクスパンジョンジョイントと同様の目的で配管の膨張伸縮に対応する
- 配管が動きやすいようになっている。あまり動き安いと振動が大きくなり、破損等に繋がる
ウォーターハンマー
- 弁の急閉により液体が急停止し、空間両側の液体が衝突したときなどに発せいする圧力、「カン」という音がする(10Mpa以上の圧がかかることもあるウォーターハンマーが起こる場合(TLVにyoutubeリンクあり)
- バルブの急閉
- ポンプ出口が満水でない状態でのポンプ起動
- ポンプの急停止
- スチームライン中のドレンが蒸気の流れにのって動き出し、まとまった量となりおこる
- 蒸気凝縮ハンマ:スチームがドレンになり凝縮した際、一部的に真空状態になりまわりにあるドレンが集まってきて衝突し生じる
ウォーターハンマー対策
- バルブを閉める、ゆっくりあけるのぼり配管を作らない(高水位ドレンをつくらない)詳細は蒸気のことならTLVで検索
- 下記サイトで、分かりやすく説明されています。
https://www.tlv.com/ja/steam-info/steam-theory/steam-trouble/0902water-hammer1/
バルブの基礎
中身が分からないためどれも同じと勘違いしてしまうことがありますが、実はバルブにもいろいろな種類があり、それぞれ長所短所を持っています。それらの構造及び長所短所を把握しておくことで最適な製造プロセスを作ることに繋がることに加え、トラブルシューティングの際の問題解決のきっかけになることさえあります。エンジニアリングの人だけでなく、工場で働く人が抑えておくべき基本的なバルブの種類についてまとめています。
バルブの種類
-
仕切り弁(ゲートバルブ):水門に似たゲートが上下することで開閉するバルブ。圧力損失が少なく、ウォーターハンマーが発生しにくい。
-
玉形弁(グルーブバルブ):弁が上下に動き流体が流れる場所の面積が変化するバルブ。流量のコントロールができる。
-
バタフライ弁:弁が回転するように動くことで開閉する弁。流量コントロールができるが、全開でも流路に弁が残るため圧力損失がある。
-
逆止弁(チェックバルブ):一方方向にしか流れないような構造になっている弁。主に逆流防止などでよく使用される。
-
ボール弁:弁が球形になっている弁。全開時は流路に弁は残らないが流量コントロールには向かない。
各バルブの特徴
項目 | ゲートバルブ | グローブバルブ | ボールバルブ | バタフライバルブ |
閉時の影響 | 流路に残らない | 流路に残る | 流路に残らない | 流路に残る |
作動 | 上下 | 上下 | 回転 | 回転 |
流量調整 | 不適 | 適 | 不適 | 適 |
温度範囲 | 広い | 広い | 狭い | もっとも狭い |
圧力 | 広い | 広い | やや狭い | 狭い |
重さ | 重い | 重い | 重い | 軽い |
詳細は下記Kitzを参考にしてください。
フェイルセーフ
フェイルセーフとはプロセスエアーなど駆動装置が故障したときに安全サイドに弁が動くこと。プロセスによって、開で安全なのか、閉で安全なのかは異なりますので、設計に合わせてフェイルセーフは設定されることになります。
レベルスイッチ
レベルスイッチ・レベル計とはタンクや反応容器中に存在する液体の液面の高さを測定する装置のことです。レベル計というとタンクや容器内にどれくらいの液体があるか、レベルスイッチは一定量以上の液体が存在するかどうかをセンシングする装置を指します。特に化学工業では危険物を扱うことが多いですので、反応容器やタンクからの液体のオーバーフロー(入れ過ぎによる漏れ)は非常に危険です。そのため、レベルスイッチと自動弁を連動させて、一定以上の液体が反応容器中に送液されないように設計されていることが多いです。レベルスイッチに種々あり、適切でないレベルスイッチを選択すると、うまくセンシングされず、最終的に危険物の漏洩につながりますので、各種レベルスイッチの構造を把握し、適切なレベルスイッチを選択することは非常に重要です。ここでは基本的なレベルスイッチの種類について紹介しています。
レベルスイッチの種類と特徴
No, |
タイプ |
原理 |
測定対象 |
メーカー |
利点 |
欠点 |
備考 |
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1 |
浮き子の浮力によりフロートが上下しオンオフ |
液体 |
ノーケン他 |
安価、対象の電気特性に依存しない |
動作部に誘導体付着、耐酸や高粘度不向き |
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2 |
音さへの接触により振動妨げでオンオフ |
液体 |
EH他 |
液質に影響されず信頼性が高い、耐酸用有 |
音さ振動発生部品の老朽化故障有、耐熱が低い(150℃) |
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3 |
接液によるの静電容量(F)の変化でオンオフ |
液体 |
EH他 |
駆動部が無くプローブがシンプル |
液質が変化すると正常に動作できない |
静電容量値はLS作動時高 |
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4 |
接液によるアドミタンス(S)の変化でオンオフ |
液体 |
AMETEC他 |
駆動部が無くプローブがシンプル |
液質が変化すると正常に動作できない |
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5 |
マグネット振動への接触による電流変化でオンオフ |
粉体 |
ノーケン他 |
安価 |
高粘度不向き、耐熱が低い(150℃) |
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6 |
電極間の接液による通電でオンオフ |
液体 |
ノーケン他 |
安価、感度調整が簡単 |
導電性液体のみ、高粘度不向き |
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7 |
モータを使用し羽根を回転させ接液でモータが回転することでオンオフ |
粉体 |
ノーケン他 |
安価、感度調整が簡単 |
液体不可 |
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安全装置
化学工業では危険物を扱うため、暴走反応や爆発、反応設備の破裂など大事故に至る可能性があります。もっとも危険な状況は設備中で暴走反応が起き、内部圧力が上昇、圧力容器が内部圧力に耐えられなくなし破裂するというパターンです。このような状況を回避するために、圧力容器には安全装置がつけられています。安全装置には具体的に安全弁と呼ばれるものと破裂板と呼ばれるものの2種類があります。
安全弁(逃がし弁)とは
圧力容器中の内部圧力が上昇した際に自動で圧力を放出し内部圧力を下げ、圧力容器の破損及び内容物の放出を防ぐ装置。安全弁は内部圧力の減少とともに自動で閉じる。安全弁の先には、フレア、フレームアレスター等が設置され可能な限り安全な形で内容物が放出されるよう設計される。
安全弁の構造
構造上、おもり安全弁、てこ安全弁、ばね安全弁の3種類に分類される。ばね安全弁は、弁が開いた時の吹き出し面積の最小部が、弁体と弁座間のカーテン面積である弁座部流路の揚程式と、弁座下方ののど部流路の全量式とに分類される。用途別には大分類として、蒸気用・ガス用・液体用があり、各配管径に対応できるようになっている。圧力上昇時に一気に開くこと(ホッピング)ができるようになっている
破裂版(ラプチャーディスク)とは
圧力容器中の内部圧力が設計より上昇した際に破裂し内部圧力を放出することで、容器の破損及び内容物の放出を防ぐ装置。圧力容器の設計圧力よりも低い圧力で破裂するようにできている。一度破裂した破裂板は交換が必要。
破裂板の構造
破裂板(ラプチャーディスク)は、破裂板の他に、破裂板を保持し配管または装置に取付けるためのホルダー、負圧時のバキュームに対して破裂板を支えるバキュームサポートなどで構成されています。破裂板は設置時の締め付け方法や圧によって設計圧力よりも低い圧力で破裂してしまうことがありますので、取り付け問うには十分注意が必要です。
安全弁と破裂板の併用
ベント側に安全弁、圧力容器側に破裂板を設置し併用することがあります。これは通常の作業の中で内容物により安全弁が腐食しさどうしなくなることを防ぐためです。一方安全弁と破裂板の間に圧力計等を設置することで、破裂板が破裂していないかモニターすることができます。